所得金額調整控除の疑問点 給与・雑所得が0円の時は?申告書の記載は?など

九頭(くず)と申します。
今年も所得税の申告期限は延びたわけですが、私の方は一足先に確定申告のお手伝いの仕事を終了させていただきました。

九頭九頭

実は3ヶ月ほど青色申告会でお手伝いをさせていただきました

色々な業種の方がいそうだな
と思ったので勉強になればと思い行ってみましたが、予想通り色々な業種の方がいらっしゃったり、手書きの申告書の方もかなり多く予想以上に勉強になったなと感じました。

九頭九頭

所得税の受験生の方も繁忙期に一度バイトに行ってみると良いかも!
と、思いました

その中で新しくお目見えした論点が「所得金額調整控除」でした。
税理士業界で働かれている方はこの名前を聞くと

九頭九頭

ああ、給与と年金を貰っている人が10万円引かれるやつでしょ

と、思うでしょう。
ちなみに国税庁のHPの説明は以下のようになっています。

所得金額調整控除とは、一定の給与所得者の総所得金額を計算する場合に、一定の金額を給与所得の金額から控除するというものです。

引用:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1411.htm

私もそういった認識で最初は接していましたが手書きに申告書に触れれば触れる程疑問点も浮かんできました。
浮かんだ疑問点は2つ

・申告書の記入方法は?
・給与と年金を貰っているけどどちらかの所得が0だったら?

という疑問です。
こちらに関しては実務を通じてきちんと調べましたので、その結果をシェアしたいなと思います。

九頭九頭

ちなみに、基本的な話ですので大した発見は無いと思いますよ!
なので、あまり期待しないでくださいね(笑)

申告書の記載方法は?

これはソフトで作成している方はあまり関係ない話かもしれませんが、私は手書きの申告書と沢山お付き合いしましたのできちんと学ばざるを得なかったのです。

九頭九頭

青色申告会の職員が
「申告書書けません」
じゃ、信頼を損ないますし

こちらに関しては令和2年分の確定申告書の手引きの10ページ目に記載されていました。
手引きによると該当するものに応じて申告書の「収入金額等」の「カ」の「給与」の部分にある「区分」に1、2、3のどれかの数字を記入します。

この部分です。

手引きは国税庁のHPからダウンロードできます。
こちらのPDFだと手引きの10ページは13ページ目にあります。

こちら → 国税庁のHP 令和2年分の手引き

そして、所得金額には所得金額調整控除後の金額を記入します。
これは手引きの10ページと11ページを見れば分かります。

所得金額調整控除は、次のどれかに該当する場合と両方に該当する場合に適用があります。

「1」と記入する場合

その年の給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者で

本人が特別障害者に該当する
年齢23歳未満の扶養親族を有する
特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する

場合に該当する方は申告書に「1」を記入します。

「2」と記入する場合

その年分の給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額がある給与所得者で、その合計額が10万円を超える者

一言で言うと給与所得と年金の雑所得の両方があって合計が10万円超えている場合には控除があるよ、という話です。

この場合には「2」を記入します。

「3」と記入する場合

「1」と「2」の両方に該当する場合には「3」と記入します。

給与と年金どちらかの所得が0だったら?

私自身もそうでしたが、最も目にする機会が多いのは「2」を記入する、給与と年金を貰っている場合だと思います。
そうなると給料と年金の両方を貰っているけど

・給与所得が0で年金所得はある場合
・給与所得はあるけど年金にかかる雑所得が0の場合

など、色々なケースが想定できると思います。
もちろん、これらの場合も遭遇していますので取り扱いをシェアします。

九頭九頭

私の独自の解釈ではなく、基本的な取り扱いですのでご安心ください

調整控除前の給与所得と年金に係る雑所得のどちらかが0になる場合

まずはこちらの例です。
なお、年齢は65以上の方という想定です。

ケース1

・給与収入…50万円
・年金…200万円

ケース2

・給与収入…150万円
・年金…100万円

ケース1の場合は給与収入が50万円なので給与所得が0でケース2の場合は公的年金の雑所得が0になります。
こういった場合には調整控除はありません。

なので、ケース1は

・給与所得…0円(50万円ー50万円)
・年金の雑所得…90万円(200万円ー110万円)

となり所得金額調整控除額は0円です。

ケース2は

・給与所得…95円(150万円ー55万円)
・年金の雑所得…0円(100万円ー100万円)

となり調整所得控除額は0円です。

理由は以下で説明します。

理由1

まず、適用要件が

その年分の給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額がある給与所得者で、その合計額が10万円を超える者

です。
ケース1と2は給与所得と公的年金等に係る雑所得の金額の片方しかありません。
なので、そもそも適用要件を満たしていません。

理由2

給与と年金がある場合には所定の計算式があります。
その計算式が

{給与所得控除後の給与等の金額(10万円超の場合は10万円) + 公的年金等に係る雑所得の金額(10万円超の場合は10万円)}-10万円=控除額(注)
(注) 上記1の所得金額調整控除の適用がある場合はその適用後の給与所得の金額から控除します。

です。
この計算式に当てはめると、給与所得が0の場合には

0+10万円ー10万円=控除額0円

公的年金に係る雑所得が0の場合は

10万円+0-10万円=控除額0円

となりますので、計算式に当てはめても0なのは明らかです。

調整控除前の給与所得が10万円未満の場合

次のケースは以下の場合です。

・給与収入…60万円
・年金…200万円

この場合、それぞれの所得控除額を引くと

・給与所得…5万円
・年金に係る雑所得…90万円

なります。
この場合、所得金額調整控除後の金額はどうなるのか?

以下のようになります。

・給与所得…0円
・年金に係る雑所得…90万円

このように給与所得だけから引かれて、年金に係る雑所得からは引かれません。
最初の私のように

九頭九頭

給与と年金がある場合は10万円引くのか

という認識だと間違えがちなところです。

理由は以下のようになっています。

理由1

国税庁のHPの説明を見ると

その年において、次の(1)に該当する者の総所得金額を計算する場合に、(2)の所得金額調整控除額を給与所得から控除するものです(注)。

(1) 適用対象者
その年分の給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額がある給与所得者で、その合計額が10万円を超える者
(2) 所得金額調整控除額
{給与所得控除後の給与等の金額(10万円超の場合は10万円) + 公的年金等に係る雑所得の金額(10万円超の場合は10万円)}-10万円=控除額(注)
(注) 上記1の所得金額調整控除の適用がある場合はその適用後の給与所得の金額から控除します。

引用:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1411.htm

と書かれています。
この規定は給与所得から控除するものだと書かれているもので雑所得から引かれるものではありません。

理由2

先ほどの

{給与所得控除後の給与等の金額(10万円超の場合は10万円) + 公的年金等に係る雑所得の金額(10万円超の場合は10万円)}-10万円=控除額(注)
(注) 上記1の所得金額調整控除の適用がある場合はその適用後の給与所得の金額から控除します。

こちらの計算式に当てはめてみましょう。

5万円+10万円ー10万円=5万円

という計算式になります。
なので、5万円を給与所得から差し引いて終了となります。

理由3

こちらのPDF(国税庁のものです)に所得金額調整控除の趣旨が書かれています。
こちら → 国税庁のPDF

こちらの5ページの②というところの説明を見ると

・給与所得控除…10万円下がった
・公的年金等控除…10万円下がった
・基礎控除…10万円上がった

そのため、給与と年金を貰っている人は去年と比べると10万円控除額が少なくて残念だから最大で10万円引いて調整しましょう。
ということが書かれています。

つまり、給与所得控除額と公的年金等控除額と基礎控除の合計額が去年と同じ金額になるようにしましょう
と言う意味です。

先ほどのケースを見てみましょう。

・給与収入…60万円
・年金…200万円

昨年までなら控除額は

・給与所得控除額…60万円
・公的年金等控除額…120万円
・基礎控除額…38万円

計218万円

となります。

今年の場合は

・給与所得控除額…55万円
・公的年金等控除額…110万円
・基礎控除額…48万円

計213万円

となります。
この場合足りていないのは218万円ー213万円で5万円ですので、5万円だけ控除すれば昨年と同じ結果になります。

このように既定の趣旨から考えても5万円が正しい控除額ということが分かります。

最後に

今回は今年の確定申告で初めて見た論点で思わず間違えてしまった、という理由から所得金額調整控除について実務していて気になった点などを中心に紹介させていただきました。

現在確定申告作業中の方の参考になったり所得税法を受験される方の参考になればと思います。